包括遺贈/特定遺贈/換価遺贈/換価分割の4類型と、個人間・法人遺贈・特定口座の整理
遺産の全部または一定割合を遺贈。包括受遺者は相続人と同一の権利義務を有する(民法990条)。
特定の財産(不動産A・株式Bなど)のみを遺贈。特定受遺者は相続人の地位を有さない。
被相続人が遺言で「財産を売却して代金を分配せよ」と指定。遺言の効力として換価義務が生じる。
相続人間の遺産分割協議で「売却して代金を分けよう」と合意する分割方法。協議による換価。
換価遺贈と換価分割は、外形上「物を金銭化して分配する」点で似ていますが、根拠(遺言 vs 協議)が異なり税務上の整理にも差が生じうる論点です。
遺産分割の効力は相続開始時に遡及(民法909条本文)。実務上の登記方法は次の2通り。
共同相続人各人に、換価代金の取得割合に応じて譲渡所得が帰属(所得税法33条、同12条 実質所得者課税の原則)。
適用可能と解されます。要件は次の3点。
遺言執行者は、遺言の内容を実現するために必要な一切の行為をする権利義務を有するとされます(民法1012条)。登記実務上、次の2段階の登記が必要と解されます。
中間省略登記(被相続人から直接買主へ)はできないと解されており、売却の前提として相続人名義(共有)を経由する必要があります。
現在も学説・実務で議論のある論点です。主な見解は次の2つ。
| 説 | 内容 | 位置づけ |
|---|---|---|
| 受遺者帰属説 | 実質所得者課税の原則(所得税法12条)から、売却代金を実質的に取得する受遺者に譲渡所得が帰属。 | 税務大学校論叢85号、神戸学院法学51巻1号、複数の税理士法人の実務解説で妥当とされる立場が多い。 |
| 相続人帰属説 | 登記名義上の所有者である相続人が売主となるため、形式的な納税義務者は相続人。 | 税務署が登記の外観から相続人に課税通知を発する事例があり、実務紛争の温床となっていると指摘される。 |
清算型遺贈であっても、実際の売却は相続開始後の行為であり、被相続人が生前に譲渡したわけではないため、被相続人の準確定申告(所得税法125条)として整理することは原則として困難と解されます。民法909条の遺産分割の遡及効を譲渡所得課税の場面で生前段階まで巻き戻して被相続人に帰属させる取扱いは確立していません。
受遺者が相続人以外の第三者である場合、相続人は当該不動産につき相続税の課税を受けていないことが多く(受遺者が相続税を負担)、相続人帰属で課税されると取得費加算が使えない不合理が生じます。受遺者帰属説に立てば、受遺者自身が相続税を負担しているため適用される余地があると解されます。
法人は民法上の相続人にはなれません。包括受遺者・特定受遺者にはなれます。よって法人への財産承継はすべて「遺贈」として整理されます。
法人への遺贈は、被相続人について時価で譲渡があったものとみなされます。これは法人に相続税課税がない(相続税法1条の3は個人のみ)ことに対応し、被相続人段階で含み益を所得課税で清算する趣旨です。
みなし譲渡による譲渡所得は被相続人の死亡年分の所得として準確定申告(相続開始を知った日の翌日から4ヶ月以内)の対象。
国税通則法5条により、被相続人の国税の納付義務を承継するのは「相続人および包括受遺者」。法人である包括受遺者も納付義務を承継すると解されます。
受贈益として法人税課税(法人税法22条2項)。取得価額は時価(みなし譲渡で清算後の価額)。
特定遺贈であっても法人が受遺者である以上、みなし譲渡課税が発生。被相続人について時価で譲渡があったものとして譲渡所得が発生します。
国税通則法5条が承継義務者として規定するのは「相続人および包括受遺者」のみ。特定受遺者は含まれません。したがって特定遺贈の場合の準確定申告は相続人が行うことになると解されます。
相続財産は法人化(民法951条、相続財産法人)。相続財産清算人(旧:相続財産管理人)が準確定申告を行う(国税庁質疑応答事例「民法上の相続人が不存在の場合の準確定申告の手続」)。
特定口座は被相続人個人に紐付くものであり、被相続人の死亡により閉鎖されます。相続人は自己の口座(特定口座または一般口座)への移管手続を行います。取得費・取得時期は被相続人から引き継がれます(所得税法60条2項・3項)。
代表相続人方式の場合、論点1-Aと同様に、遺産分割協議書に換価分割の目的と分配割合を明記する必要があります。
各相続人に換価代金の取得割合に応じて譲渡所得が帰属(実質所得者課税、所得税法12条)。代表相続人方式で形式上は代表者の口座で売却された場合も、換価分割協議に従って各相続人に帰属する整理が認められると解されます。
| 口座種別 | 売却時の源泉徴収 | 確定申告 |
|---|---|---|
| 源泉徴収あり特定口座 | 証券会社が源泉徴収 | 原則不要 |
| 源泉徴収なし特定口座 | なし | 必要 |
| 一般口座 | なし | 必要 |
代表相続人の源泉徴収あり口座で売却した場合、源泉徴収は代表者名義で行われるため、他相続人への分配時の処理が煩雑になる場合があります。各相続人が確定申告で持分相当額の譲渡所得を申告し、代表相続人の源泉徴収税額を持分割合で精算するアレンジが必要となるケースがあると解されます。
適用可能と解されます。各相続人について相続税申告期限の翌日から3年以内の譲渡であれば、自己の相続税負担分を取得費に加算可能。
被相続人の死亡で閉鎖、課税口座(特定口座または一般口座)に移管されます。NISAでの含み益も移管時の時価にリセットされる取扱いとなる点に留意が必要です。
| 類型 | 納税義務者 | 申告手続 | 取得費加算 |
|---|---|---|---|
| 換価分割 (個人間) |
各相続人 | 各相続人の譲渡所得申告 | 適用可 |
| 換価遺贈 (個人間/受遺者=相続人) |
相続人=受遺者 | 相続人の譲渡所得申告 | 適用可 |
| 換価遺贈 (個人間/受遺者=第三者) |
議論あり(学説:受遺者/実務紛争:相続人) | 議論あり | 納税義務者により変動 |
| 法人への包括遺贈 | 被相続人(みなし譲渡) | 準確定申告(法人+相続人が共同、または法人単独) | ―(被相続人課税のため) |
| 法人への特定遺贈 | 被相続人(みなし譲渡) | 準確定申告(相続人が実施) | ―(被相続人課税のため) |
譲渡所得課税の枠組み(増加益清算課税説)に関する主要判例として次のものが引用されますが、清算型遺贈そのものについて最高裁判決として確立したものはありません。